この本読んだ 14


『河童が覗いたインド』 妹尾河童(新潮社1991.3)

 この本を初めて手にしたのは、数年前のインドへ向かう機内でのこと。隣に座っていた同じツアーの初対面の人に薦められたのです。機中の私が胸に抱いていたインドとは『タージマハール、サリー、タンドリーチキン、ガンジス河の沐浴、道路を塞いでいる牛(聖なる牛)』。まさしくガイドブックの受け売り。
 お隣のご好意で(ずうずうしく)本を借り、開いた途端「??!!」。見ると分かるのですが、細かい絵とマスメに収まっているような文字。河童さんの本業は舞台美術家だけど、この緻密な絵や好奇心旺盛な文章は職業柄ではなく性格、それも相当な凝り性。自分の足で見つけた好きな事だけを取り上げている作品です。余談ですが、インド以外の『河童が覗いた・・・』シリーズの著名人の仕事場・トイレなど他人には見せたくない場所も、河童さんのフィルター(絵)を通すと,くどさが抜けていい感じ。モノクロなのもとても良い。例えばインドって原色キラキラのイメージが強いけど、実際は土埃の街。そんなギャップを埋めるにはちょうどいいのです。
 また,河童さんVS地元インド人のカケヒキも楽しい。これを楽しめたらインドにハマルに違いない!ガイドブックなら「こんな物売りに注意!」なんて書かれるのがオチだけど、それが生きる術だと楽しめる柔軟性を河童さんは持ち備えているのです。
 そんな河童さんも「カースト制度」については別。独立後の新憲法では、カーストによる差別を禁じており法的には「カースト」は存在しないことになっていますが、現在も職業を生まれにより世襲化されています。しかし河童さんは直面する差別を特別視することはないのです。私たち自身にも差別意識が潜んでいるのだから。
 インドに行く機会がある方は、河童さんのモノクロの絵に「あなたが覗いたインド」を色付けしてみてはいかがでしょうか? (笹川繁子)